暮らしに活かす、身近な鍼灸と東洋医学の智恵!

                       はり・きゅう治療処「路傍庵」主人 大浦慈観
※はじめに※
 こちらは、日本東洋医学会関東甲信越支部・北関東地区で平成23年3月6日(日)に開催されました。
 [ 第9回市民公開講座 『漢方で元気』 ]で発表されたものを大浦先生と日本東洋医学会関東甲信越  支部の了承を得て掲載しているのもです。ご協力に感謝申し上げます。
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1、おばあちゃんは知っていた! 昔の人の健康の智恵。

・皆さん、カゼをひいた時に、葛湯やネギ味噌湯やたまご酒をお母さんから飲まされた経験はないですか
・またノドが痛い時に、寝る前にノドに刻んだネギをガーゼで巻いてもらったことは有りませんか。
・寒気がしたり食欲がない時には、体を温めるために生姜をすりおろして湯に解き、飲みやすいように蜂 蜜 を混ぜて飲んだ経験も あるかと思います。
・それから、昔の家の庭の裏側には必ずドクダミが生えていて、季節の変わり目などには体の毒消しを するといってドクダミを煎じ て飲まされたりしました。ドクダミの根の鬚は痔に効くともいわれ、また生葉を 青 汁にして飲むと肌が白く美しくなると言われてい ます。
・そんな昔からの智恵や習慣も、現代社会では過去のこととして知る人も少なくなっています。自分の健 康は自分で管理し治す  ――ということは、本来人間として当たり前のことではないのでしょうか? 努力 し ても自分ではどうにもならない時に、医療の  出番があるのです。そこで針灸と東洋医学の立場から、 身 近にできる健康管理の方法と簡単な治療法を述べてみます。

2、カゼの引きはじめのこんな症状には…

・カゼ引きの初期には、頭痛がし、ゾクゾクと寒気がして、首肩がこわばりますね。厚着をし、フトンをよくかぶり、体を温め発汗する と治ります。しかし、うまく汗がかけず悪寒するような場合、自分でできる方  法として、後頭部の「風池穴」や肩のまん中にあ  る「肩井穴」に円皮針を貼り、首の付け根にある「大椎 穴」の回りをカイロで温めながら、葛湯・ねぎ味噌湯などを飲むと、じょう  ずに汗をかいてカゼ症状を治す ことができます。漢方ではよく葛根湯や麻黄附子細辛湯を飲むと、発汗して治ります。針灸で  は、首肩 や背中の上の方にチョンチョンと浅く多く針の皮下刺入をくりかえすことで発汗を促しますし、「大椎穴」 にお灸をして  寒気を除きます。

・ノドや鼻の奥が痛み、首の回りに熱感がある時は、ノドや鼻の奥で炎症がおこり外から侵入した細菌やウイルスと体を防衛するリ ンパとが戦っている状態です。そうした時には、ノド鼻周囲の血流を積極  的に促して、リンパの働きを援助してあげねばなり   ません。漢方では桔梗湯や葛根湯加桔梗石膏など で改善します。ねぎをノドに巻くのも、鎮痛作用と気管粘膜を潤し痰を出   す効果をねらったものです。針 灸では、ノドの周囲をチョンチョンと軽く針の刺入をくりかえして痛みを鎮め、ノドの後ろにあたる  後頚部 に針を刺入したりお灸をすることで血流を促し、手の「合谷穴」に針をして気をよく引きノドの痛みを和ら げます。


3、お腹の痛みや膨満感、便秘や下痢を改善するには…

・現代はストレス社会、心配事や神経を使う仕事などで胃部の不快を感じることは多いですね。胃粘膜が荒れていたり、胃の機   能低下でガスが脹っていたり、ゲップが出て何となくムカムカしたりすることが あります。昔から梅干や大根おろしを食べるとよ いと言いますが、梅干または梅肉エキスを番茶に混ぜ て飲むと胸焼けや胃の痛みがよくなります。私が子供のころは母にセン ブリ(=当薬)をお湯に浸して飲まされました。漢方では、半夏瀉心湯や黄連湯などで改善します。針灸では、胸焼けを軽くする  ため に手首内側の少し上にある「内関穴」に円皮針を貼ったり、胃痛を鎮めるために上腹部に針をしますが 、お家でできる   方法としては、「胃の六つ灸」といって背中のまん中6点(膈兪穴・肝兪穴・脾兪穴)にセ ンネン灸をするのも良いでしょう。

・ご自分の舌を鏡で確認してください。舌の苔が白く多くなっていたり、舌全体がビッショリと濡れていたり します。これは食べたり 飲んだりした物が、胃や腸の中に滞っている証拠です。さらに、胃腸炎や胃潰瘍のように胃腸の中で炎症が起こっていると、舌  の苔は黄色くなって渇いてきます。舌の状態は、お腹 の健康のバロメーターでもあります。

・ヘソ周囲のお腹が冷え、腸の動きが悪くなってガスが脹ってきたりすると、お腹の痛みや不快感がでます。男性では下痢になる  人が多く、女性では便秘になる人が多くみられます。また、便秘と下痢を繰り 返したりする人もいて、人により違うようです。さら に、足を冷やしているうちに、お腹がキューッと痛くな ってくることもあります。そんな時まずはお腹を温めてみましょう。温コンニ ャクまたはカイロで温めたり、 ドライアーを使う手もあります。漢方では、桂枝加芍薬湯や小建中湯などで改善します。また便  通の異 常には桂枝加芍薬大横湯が効くこともあります。針灸では、ヘソの周囲を棒灸で温めたり、「ヘソ灸」と いってヘソの上 に塩を盛ったり、生姜のスライスを置き、その上にモグサを乗せて燃やしたりします。専 門家は、おヘソ周囲4点に米粒の半分  位の小さなお灸をしたり、膝下の「足三里穴」と足の親指付け根 にある「太白穴」にお灸をすると、腹痛や下痢が改善します。

・慢性の便秘に悩んでおられる女性は多いと思います。コーラックなどの便秘薬を常用されている方も多いでしょう。日常、繊維  性の野菜を多くとったり、ヨーグルトを食べて腸の機能を促すよう心掛けたり、決まった時間にトイレに行くよう習慣づけたりする  ことも大切です。漢方では、大黄甘草湯や麻子仁丸、通 導散など大横の入った薬で便通を促します。針灸も頑固な便秘を改善 するのに有効です。おヘソの両 脇にある「天枢穴」や、お通じの詰まりやすい下腹の両脇にある「水道穴」などに針をしたりお灸  をすえ ると、腸の蠕動運動が活発化します。その上で膝の下にある「足三里穴」や「上巨虚穴」に強く気を引いてあげると、お   通じも下がるのです。頑固な便秘の場合には、針灸をして腸を物理的に動かし、漢方 薬でその状態を維持増強する方法もよい でしょう。
4、乗り物酔いには…

・胸焼けや胃部不快と同様に、乗り物酔いを予防するには手首内側少し上の「内関穴」に円皮針を貼ると効果があります。「おまじ ない」のつもりで旅行の前に貼って出かけると、酔わずにすみます。この穴は胸の中や胃とつながっている経絡ルートですので、 ムカムカする気の滞りを手の方へ流し去ってくれるのです。
5、季節の変わり目に起こる腰痛には…

・春先の3〜5月頃、あるいは秋口の9〜11月頃には、よく腰痛や首肩の痛みに悩まされる人が多くなります。東洋医学では、春  は冬中にたまっていた毒素を分解解毒するため肝臓が活発に働かざるをえない季節だと考えますが、同時に筋肉の病も多く   なる時期なのです。春先には気温もやっと温かくなりま すが、まだ寒い日も多く、一日の内でも寒暖の差が大きくなります。そう すると体の表面の筋肉はゆるみ血液循環もよくなりますが、体の深部の筋肉はまだ固いままで冷えています。体全体の筋肉   の緊張 の具合もアンバランスな状態なのです。とくに腰は肋骨も無く、背骨の柱をお腹側の筋肉と背中側の筋 肉とで「やじろ  べえ」のように釣り合いをとっている場所です。しかも、屈む・反らす・横に曲げる・左右に 捻るなど、体全体の要となってあらゆ る運動の起点となる部位なのです。やっと温かくなり体がほぐれてくると人間は動きたがるものですが、不用意に腰を曲げたり  、手を伸ばして無理に物を取ろうとしたり 、中腰で作業を続けたりすると、てき面に急性の腰痛を起こします。これが一般的に「  ギックリ腰」と呼  ばれる筋筋膜性腰痛です。これを予防するには、寒い朝の起きがけや作業する始まりに、よく腰の筋肉のスト レッチをすることです。「腰痛体操」と呼ばれる運動法がそれです。

・ギックリ腰の初期、1〜2日目は筋肉の炎症により熱感があることが多いため、まずは冷シップを貼り安 静にすることが大事で  す。しかし、3日目くらいからは積極的に温めて循環を良くし、筋肉の中に滞った 発痛物質や乳酸などの老廃物を流し去ること  が、回復を早めるコツです。お風呂に入ってじっくり温める のも効果的です。鎮痛剤は良く効くものほど胃を荒らす副作用があ  りますので、できるだけ控えます。

・「ギックリ腰」は針灸が得意とする症状の一つで、即効性があります。針灸の治療は、急性期には患部 周囲の痛みが強く神経も 興奮した状態ですので、患部周囲はチョンチョンと散針をくりかえし神経の興  奮を鎮め熱気を冷ますようにし、腰と関連のある 足の経絡ルート上の穴、例えば膝裏の「委中穴」や足 首外側の「崑崙穴」によく気を引く操作をします。こうすると腰の痛みや熱 感が足の方へ引かれ軽減してゆくのです。こうした治療を2日間くらいすると、患部の腰の緊張もやや緩んでき、通常どおり腰へ の針治療ができるようになります。但し、強い刺激は避けます。この頃には棒灸で患部を温めるのも大変 気持ちよく、回復を   早めます。


・中年以降になると、同じ「ギックリ腰」といっても慢性腰痛が悪化するケースが多く見られるようになります。普段から腰痛がある  のに寒い中普段やらない作業を続けたりすると、夕方や次の朝起きる時にな って腰痛が悪化してしまうのです。このような場合 は患部の熱感はあまりありません。むしろ冷えて固く 強ばっています。それゆえ治療も患部の強ばりをじょうずにほぐし、お灸で 温め血液循環を積極的に促すことが大切です。表層から中間層そして深層へと順次筋肉をまんべんなくほぐします。一部はほ  ぐれ 、一部は突っ張ったままでは、痛みがあちこちと移るだけで改善したとは感じられないでしょう。具体的 な治療方法は施術 者によりさまざまな術式がありますので、説明を聞いた上で治療を受けるとよいでしょう。

6、寝違いには…

・俗にいう「寝違い」も季節の変わり目である秋や春に起きやすいものです。寒さに慣れてない時期や寒 暖の差が多い時期には、 血流も上手にコントロールできません。そんな時に首周辺が冷やされると、首 筋も強ばりが強くなるものです。首筋の強ばりは 、鼻の奥やノドの血液循環を悪くし、唾液の分泌や鼻 ノドの免疫機能も悪くします。それゆえカゼも引きやすくなりますが、鼻ノド の炎症が落ち着く頃になると 首筋のほうに炎症の熱が回ってくることがあります。その他、歯の治療中に首筋の炎症が起こるこ とも あります。寝ていて枕から頭が落ちたせいではないか、あるいは変な姿勢で寝ていたせいかと思うこと もあるでしょう。そ  れゆえ「寝違い」というのです。頚椎を長い間後ろへ反らしていると頚部の神経が圧迫されて首の筋肉痛になることも事実ですが 、寝ている間に首筋に布団をかぶらず冷やしてしまうのが 首筋の炎症を起こす大きな要因なのです。普段から首肩の強ばりの 強い人は、血流や免疫機能の弱 い首のリンパ節にまっ先に炎症が起きますから、寒い時期には襟首を冷やさぬように心掛ける のも大切です。カゼ予防と同様に、襟巻き、ネックウォーマー、カイロ、首用の温パックなどで予防しましょう。

・針灸での治療は、基本的には「ギックリ腰」と同じです。急性期の熱感の強い時期には、首の痛む部位 をチョンチョンと浅く散針 した上で、手首近くの首と関連する穴によく気を引いて痛みを軽減させます。首 筋の熱感が少なくなったら、強ばりの強い筋を  緩め棒灸などで温め血流を促す治療をすれば、痛みは 改善し首も回しやすくなるものです。

7、ムチ打ち症には…

 ・交通事故のムチ打ち症(=頚椎捻挫)も、多くの方が後遺症に悩んでいることでしょう。事故の直後には首の周囲が熱く痛み、  頭痛や吐き気、腕のシビレやダルさを伴います。少し経つと腰痛が出てくる人もいます。痛めた頚椎の部位により、腕や背中へ  放散するシビレや痛みの発生する場所も異なります。急性期には、頚椎周囲の靭帯や筋が炎症を起こし熱くなるとともに、うっ血 していることも多く、漢方では桂枝茯苓丸や桃核承気湯が有効です。針灸での急性期の治療は寝違いとほぼ同様に患部に集ま った気や熱を散らす方法を取ります。症状がつらい過敏な時期に強い刺激が加わると自律神経が変調を来し、貧血・めまい・吐 き気・動悸・のぼせが強くなる場合があるためです。しかし何年も経って慢性化してくると、首回りの筋肉が固く強ばった状態とな り首が常に重苦しく回らなくなりますので、しっかりと緩めほぐす治療を行います。うっ血がひどい場合には、刺絡といって数滴の 血を漏らすとスッキリすることもあります。

8、頭痛する場合には…

・頭痛になると皆さんはノーシンなどの鎮痛剤を常用される方が多いと思います。実は頭痛も針灸の得意 な分野です。頭痛の部 位が前面か側面か後面かによって、治療する部位や手に針する経絡ルートも異なります。

・前面の場合、胃腸など消化器の弱っている状態を伴うケースが多く見られます。皆さんお酒を呑みすぎて二日酔いした場合な  ど、前頭部やコメカミがズキズキと痛んだ経験があるのではないでしょうか。ミゾ オチが気持ち悪いのといっしょに、頭痛がしま す。時間が経ち気持ち悪さが軽減すると、頭痛も改善します。これと同様に前頭部の頭痛には、心下部に針とお灸をした上で、 額や目の回りにチョンチョンと散針し、コメカミにある「頭維穴」に針を刺し、手の「合谷穴」によく気を引くと頭痛は改善します。

・頭痛が側面の場合、イライラしたりストレスで緊張が続いたり、目を酷使したりしたすると起こるケース  が多く見られます。この ような場合、背中にある「肝兪穴」に針とお灸をしてストレスからの緊張を緩め  た上で、首肩側面の筋緊張をほどき、耳の上あ たりの側頭筋のスジバリを緩め、手の「中渚穴」によく  気を引くと頭痛は改善します。首肩側面の筋緊張があると、不眠傾向が でたり、耳鳴りや耳管狭窄症など耳の疾患が併発することもよくあります。こうした傾向のある方は、手首外側少し上にある「 外関穴 」に円皮針を貼っておくと予防効果があります。

・頭痛が後面の場合、腰痛があったり、背骨の両脇の筋肉が全体に強ばっている人によく見られます。  こういう人が目を酷使す ると、後頭部の首と頭の継ぎ目の所が異常に盛り上がって後頭部から頭のて っぺんにかけての頭痛が起こります。この部位  から頭の上に向かう大小の後頭神経がコリで締めつけ られるからです。こうした頭痛には、背中全体を緩めた上で、後頭部の 継ぎ目にある「天柱穴」や「風池穴」に針を刺して盛り上がったコリを緩めると、目がハッキリしてきたり鼻の通りがよくなったりし  て頭痛 も改善します。手の小指の付け根にある「後谿穴」によく気を引いておくと、後頭部の重苦しい違和感も 消失します。

9、パソコンの普及とともに多くなった眼性疲労には…

・今や事務職の方はパソコン無しでは仕事にならなくなりました。それとともに、長時間パソコンの前で作業しつづけるために、慢性 腰痛に悩まされたり、ドライアイになって慢性的な眼性疲労に悩んでいる方も多いでしょう。パソコン画面をじっと見つめ、キーボ ードを叩き続ける作業は、まばたきを減らして目を乾燥させ、目を酷使し腕を挙げた状態を続けるために首肩や肩甲間部の筋肉 を持続的に緊張させることになります。それがひどくなると頭痛や吐き気となるのです。針灸での治療は、内側の目頭上にある「 晴明穴」のコリをほぐし、目尻の外側からコメカミにかけての「太陽穴」と「頭維穴」付近のスジバリを緩め、頭痛でお話ししたと同 様に後頭部の骨ぎわのコリをほぐすと、目が開き視力がハッキリし涙が出てきたりしてリラックスできます。

・これを応用して普段の生活の中で眼性疲労を軽減するマッサージ法があります。ポイントは3点です。@目頭内側上の「晴明穴」 と、Aコメカミのゴリゴリした所と、B後頭部の骨ぎわ「ぼんの窪」と呼ばれる所のゴリゴリです。@とAはあまり強くゴリゴリと押  すと充血してよけいズキズキと痛むことがありますから、丁寧に気持ちよい力で押してください。Bは少し痛いくらい強めに押した 方が改善に効果的です。

10、バカにできない肩や背中のコリ・痛み

・日本人のほとんどの方が、肩コリを感じていると言われます。以前は畳の生活のせいだと言われました が、洋間の生活になっ  ても肉体労働が少なくなっても、肩コリは多くの方が感じています。コタツでテレ ビを見ているだけでも肩が凝ってくる人もいま  す。人間関係や仕事のストレスが、首肩の持続的緊張  の原因になっている場合も多くあります。そして肩コリは現代人の運動 不足とも関係が深いようですね 。また、首の長い人、撫で肩の人は肩が凝りやすいとも言われます。マッサージをしてもらうと  気持ちよ くなりますが、持続的な効果はあまり期待できないようです。低周波などの電気治療もあまり効果の持 続性はありま せん。

・漢方では、葛根湯や麻杏?甘湯や小柴胡湯で効果が見られることもありますし、更年期症状に伴う肩コ リには、加味逍遙散や  桂枝茯苓丸で改善することもあります。

・針灸治療にも肩コリを主訴としていらっしゃる方が多くいます。治療は、肩の強ばったスジを直接緩める ことになりますが、針先 がスジバリに触れると気持ちよい響きが感じられ、即効的に緊張したスジバリ  が緩むのが針灸治療の特徴です。要所にお灸 もすえて血流を活発に促すと、より持続的な効果が期  待できます。肩甲間部や背中のコリも同様に治療します。

・但し注意をしておきたいのは、肩コリや背中のコリには内臓の異常が誘因となっている場合が多く見ら れることです。内臓の異 常に伴う例を紹介します。狭心症などの心臓の異常がある方は、左の肩や肩 胛骨周囲が異常に凝ります。胃下垂など胃の弱 い方は、左の首肩と左肩胛骨から下の背中が異常に 凝ります。肝臓や胆嚢の悪い方は、反対に右の肩と右肩胛骨から下の背 中が異常に凝ります。血液検 査などの数値に異常がまだ見られなくても肩や背中のコリが出ますから、お酒の好きな方などは 飲み 過ぎ注意のバロメーターとして軽視しないでください。結石や嚢胞など腎臓に異常がある方は、腰椎両 側にある「腎兪穴」 の上下が異常に盛り上がってきます。糖尿病など膵臓の悪い方は、腰の両側少し  上の「脾兪穴」から「腎兪穴」にかけて異常 に盛り上がってきます。こうした部位に持続的なコリと鈍痛 の様な重苦しさを感じる場合は、内臓の異常と関連するケースが多 くみられますから、専門医の検査を 受けてください。内科の治療を受けながら針灸治療を併用すると日常生活を快適に送ること が可能です。

・東洋医学においては、古来、漢方と針灸は車の両輪のように、体の内側と外側とから共同作業として  治療をはかるものとされ てきました。手術が必要となるように悪化した状態でなければ、漢方治療も内 臓疾患にはきわめて有効ですので、漢方と針灸  を併用することもおすすめです。コリは内臓疾患の早  期発見と予防のバロメーターでもあるのです。
11、五十肩には…

・高齢になられた方々の中には、「五十肩」といわれる肩関節周囲の炎症による痛みを経験された人も多いと思います。五十歳で  痛みがでるとは限りませんが、男性女性ともにそれ以降になると俗に「スジ」 と呼ばれる筋肉の腱や靭帯がもろくなってきま   す。それが顕著に表われるのが肩なのです。そのほか 肘や手首の腱鞘炎が出たりすることもあります。肩は前に挙げたり外に 挙げたり内外に捻ったり荷物を 持ち上げたり押したり引いたりと大活躍する関節ですが、腕の骨と肩の骨とをつないでいるのは 、「回旋筋腱板」といわれる4つの筋肉の腱の集まりです。そしてさらに三角筋や力コブを作る上腕二頭筋の 腱がそれを包んで いるのですが、五十歳近くなると血液循環も悪くなり疲労物質もたまりやすくなって筋や腱は固くもろくなります。それゆえ荷物を 何回も何回も運んだり、重い物を持ち上げようと負荷をか けすぎたりすると、肩関節周囲の炎症が起こるのです。肩が疲れて  重苦しく感じたら休むのが一番です 。それでも仕事を怠けられないマジメな人がなりやすいのが五十肩なのです。ひどくこじれ てくると夜寝ていても痛むようになりますから、無理はいけません。

・治療は一般的には鎮痛剤や温熱療法・運動療法が行われますが、なかなか改善しないのが実情です 。針灸治療を併用すると 、痛みは早期に改善します。まずは肩周囲の痛みで引き攣っているスジを、軽 めの刺針でほぐします。その上で、痛む部位と  反対側の肩の同じ部位に軽く針を接触し、よく気を引い  て炎症性の痛みや熱気を反対側に引き寄せます。この時に痛む方の 肩関節を軽めに動かしてもらうと 効果的です。東洋医学には「実」と「虚」という考え方があります。炎症で痛んだり熱をもってい るのが「 実」で、皮膚に張りがなく冷えているのを「虚」といいます。痛んでいる肩の実している気を、反対側の  肩(=虚)に針 で引いてあげると、痛みは軽減するのです。こうした操作の後で、棒灸などを使って患部 を温めて肩の循環を促してあげると、 肩腕の動きが楽になります。


12、いろいろな場所に起こる神経痛には…

・神経痛には、肋間神経痛、坐骨神経痛、顔面神経痛など、いろいろな部位に起こります。ヘルペス・ウイルスによる神経の炎症  や、背骨の変形や椎間板ヘルニアが主原因の神経痛もありますが、一般的に神経痛の多くは冷えが原因で起こります。それゆ えお風呂に入って温まると楽になります。カイロなどで痛む部位を温めるのも、症状を緩快させます。冷たいシップを貼ると気持 ちよい場合は、貼っても問題はありませんが、痛みを気付かなくしているだけですので治癒には結びつきません。
・神経痛も針灸の得意な疾患です。冷えが原因する場合、神経が深部から表層に出てこようとする部位の筋肉などの軟部組織が 冷えて強ばっていることが原因となりますから、そこを針で緩めた上で、お灸をして温め血流を改善してあげれば治ります。その 場合、痛みはじめてから日の浅いものは数回の治療で治りますが、半年、一年と長く続いているようなものは、徐々に改善して  ゆきますので、2〜3回で良くしたいなどと焦らず治療を継続してください。

13、産前産後の心得として…

・逆子治療に針灸が有効なことは、良く知られています。特効穴は、足の内踝より少し上がった所にある「三陰交穴」と足の小指先 端にある「至陰穴」です。そこに米粒の半分位のお灸を3〜5壮、毎日すえつづけると1ヵ月ほどで効果がみられます。逆子は下 腹部が冷えていることが主要な原因になりますので、妊娠が確認されたら足腰を冷やさぬよう心掛けることも大切です。

・妊娠8ヵ月ともなると、お母さんはお腹が大きくなり腰痛に悩まされたり、足が浮腫んで重くなったりします。針灸は、それらの苦  痛を軽くするお手伝いができます。古来「安産針」といって、お腹が大きくなると腰の両脇から骨盤内にある腸腰筋が堅くすじばっ てきます。そこでお母さんには横に寝てもらい、腰の両脇6ヵ所から腸腰筋に素早く針を当てては抜く方法で筋緊張を緩めます。 こうしておくと、腰痛は軽減され骨盤内の余計な強ばりも少なくなり、お産も楽にできるのです。足の浮腫みには、「ふくらはぎ」を 軽く針して緩めマッサージすると良いでしょう。

・漢方薬でも「安胎の妙薬」といって、産前と産後の3ヵ月間は当帰芍薬散を飲んでいると、お産が楽にすみ、また産後の悪露の下 りもよく、ひいては更年期障害も軽くすむと言われています。

・子供が生まれるとすぐ、以前は赤ちゃんに「まくり」と呼ばれる胎便を下す漢方薬を飲ませました。飲んで一日ぐらい経つと真っ黒 い胎便が出ますので、その後子供は元気にスクスクと育つのです。「まくり」の内容は瀉心湯に紅花を加えたものが一般的で、こ れを脱脂綿に含ませて少しずつ子供に与えます。
14、幼児の体調管理の心得として…

・子供が3歳になるまでには、いろいろと体調不良を起こすことがありますね。3歳前の脳の発達は不十分ですので外からの刺激 に敏感ですし、外気に当たると熱も奪われやすく環境にうまく適応できるようになるまでには、さまざまな変調を来します。寝つき が悪く夜間に目をさましやすい。神経が過敏になって泣きやすく怒りっぽい。眉間やコメカミに青筋をたてる。ブルブルと振るえて 泣き、ときどき「ひきつけ」を起こす。突然乳を吐く。偏食して甘いものばかり食べる。――これらは「夜泣き」「疳の虫」「驚風」とい われる症状です。

・これらの神経の過敏症やお腹の不調に、昔から「小児針」「チリケの灸」という方法が著明な効果をあげてきました。「小児針」は、 刺さない針を用いて首肩胸腹背の皮膚面をこする方法です。皮膚を強くし、精神を落ち着かせ、胃腸など内臓の働きを活発にし ます。「チリケの灸」とは、背中の上にある「身柱」という穴のことですが、それに加えて背骨の上、首の付け根の大きな骨とお尻  の下とのまん中に当たる「中枢穴」、そしてお臍の両脇にある「天枢穴」の合わせて4点に、小さなお灸を温かさを感じる程度にす えると、気持ちが落ち着き、夜によく眠るようになり、下痢や乳を吐くのもなくなります。

・小さい子供は、金属や熱の微細な刺激でも心身の不調を回復させる力を自ら持っています。これをお母さん自身でもうまく引き  出せる簡単な方法として、栃木県針灸師会ではスプーンと歯ブラシとドライアーを利用した「スキンタッチ講習」を、JR駅前の宇  都宮市保険センターで毎月行っていますので、小さなお子さんの体調不良に心配されている方は、栃木県鍼灸師会または宇都 宮市保険センターにお尋ねください。

15、最後に…

・繰り返しになりますが、ご自身の健康を守るのはご自身です。生活の中での智恵と工夫が基本です。東洋医学とは、そうした生  活の中で病気にならずにすむ方法を皆さんと一緒になって考えながら、漢方薬や針灸や体操などの養生法を用いて心身の健  康を補強するための医学です。

・「一病息災」という言葉があります。人間誰しも心身に弱点はあるものです。自分の弱点である病の始まりに気付き、生活の中で 早めに対処していくことが、健康で生きがいのある生活を維持するコツです。先人の積み重ねてきた智恵をじょうずに生かし使う ことは、その早道だと思います。薬漬けになる前に、手術に至る前に、自ら取るべき手段や方法はたくさん身の回りにあるのです 。
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